TUOP03  合同セッション  8月29日 13号館1325/1326教室 10:40-11:10
CERN AD/ELENA における反物質研究
Antimatter research at CERN AD/ELENA
 
○黒田 直史(東京大学 )
○Naofumi Kuroda (University of Tokyo)
 
2000 年から稼動した CERN の反陽子減速器(Antiproton Decelerator, AD)は, 5.3MeV (100 MeV/c) の反陽子ビームを供給する施設で、そこでは 2002 年に陽電子プラズマに反陽子を混合することで初めて冷たい反水素原子が合成され、以後トラップを始めとする実験手法の開発にともなって CPT 対称性のテストを目的とした反水素原子の精密分光が行われるまでになった。2018 年からは AD に追加する形で反陽子の新たな減速リング(Extra Low ENergy Antiproton ring, ELENA)が稼動を始め、100 keV の反陽子ビームが提供されるようになり、より多くの反陽子が原子物理的実験に利用できるようになった。現在、AD/ELENA では、トラップ中での非中性プラズマの制御や、反陽子や陽電子の低エネルギービーム生成などの様々な手法によって反水素原子を合成し、分光による CPT 対称性のみならず、反水素原子を使った弱い等価原理の検証実験も進められている他、反陽子の磁気モーメントや質量、荷電半径の測定実験が進められている。また、ELENA からの他にない低速反陽子ビームを使って、反陽子原子の生成と分光や、反陽子と原子衝突過程の研究、原子核との散乱・消滅実験など種々の研究も提案され行われている。それらの実験の現状と成果を紹介する。