THOP01  学会賞受賞講演  9月3日 講演会場1 18:10-18:30
超伝導加速空洞の高加速勾配・高Q値化のための理論的基礎
Theoretical foundation for high acceleration gradient and high Q value of superconducting cavities
 
○久保 毅幸(高エネルギー加速器研究機構)
○Takayuki Kubo (KEK)
 
現在最良の超伝導ニオブ空洞の性能は、温度~2Kにおいて、表面磁場170-200mT(テスラ型楕円空洞の加速勾配40-50MV/m)、Q値は10の10乗から11乗に達する。今も多くの研究者が更なる性能向上に取り組んでいる。2012年、発表者が空洞業界に参入した当時の状況は以下の通りであった。最大表面磁場(∝加速勾配)の向上には、超伝導薄膜と絶縁層を空洞内面に積層した積層薄膜構造が有力だと考えられてきたが、理論的理解は進んでおらず実証実験も成功していなかった。Q値向上の取組は更に深刻で、空洞研究者の手元の道具は、理想的な超伝導体から成る空洞内に弱極限の電磁場が蓄積されている場合に適用可能なマティス・バーディーン理論だけだった。非一様かつ非理想的な超伝導体から成る空洞が超伝導を破壊する程に強い電磁場を蓄えている状況(すなわち普通の超伝導空洞の状況)に適用できる理論は持ち合わせておらず、Q値向上の指針は皆無であった。この状況でも、多次元の絨毯爆撃的条件探索や偶然の発見による性能向上の可能性は有り得るが、貴重な血税と多くの研究者の短い人生を浪費する。効率的な性能向上には、理論と実験の両輪で進む必要がある。発表者は、超伝導理論を空洞内面に適用する事で、性能向上のための理論的指針を得る事を研究の目標としてきた。本講演では2020年現在の空洞性能及びその向上のための理論的基礎を概観する。