THOLA01  学会賞受賞講演  8月9日 合同会場 17:25 - 17:45
歪み補償型超格子偏極電子源の研究
Study of strain-compensated superlattice for spin-polarized electron sources
 
○金 秀光(高エネ研)
○Xiuguang Jin (KEK)
 
GaAs型半導体フォトカソードは実用上唯一のスピン偏極電子源であり、高エネルギー物理から物性物理まで、広範な研究分野に応用されている。100%に迫るスピン偏極電子を生成するポイントは半導体の価電子帯の縮退を解くことであり、今までに歪み超格子構造が利用されてきた。歪み超格子構造では、超格子の井戸層に圧縮歪みを印加することで、歪み効果と量子閉じ込め効果により、価電子帯を大きく分離する。我々はGaAs/GaAsP歪み超格子構造を開発して、92%の世界最高スピン偏極度を実現した。一方、量子効率(取出電子数/励起光子数)は0.5%と低い値に止まっている。量子効率を上げるため超格子の層の数を増やすと、歪みが蓄積され結晶品質が悪くなり、量子効率が制限される。結晶品質を向上するために、新しい歪み補償超格子構造を提案した。超格子の井戸層に印加する圧縮歪みと逆方向の引張歪みを障壁層に印加することで、超格子全体の歪みがゼロになり、歪み緩和が抑制される。この方法により、結晶品質を劣化させずに90組の超格子層の作製に成功した。開発した24組のGaAs/GaAsP歪み補償超格子により、92%の高スピン偏極度と1.6%の高量子効率が得られた。量子効率に関しては従来のGaAs/GaAsP歪み超格子に比べ、3倍以上の大改善である。また、本発表では超格子の層の数のスピン偏極度と量子効率への影響も論じる