日本加速器学会 第22回学会賞

2026年4月17日、5月19日に開催した学会賞選考委員会における選考をもとに、理事会で審議した結果、第22回(2025年度)加速器学会賞受賞者は下記の通り決定した。 (敬称略)

奨励賞 The 22nd PASJ Award for Research Encouragement

氏名:金 展
所属:大阪大学
業績:レーザープラズマ加速による高品質電子ビーム生成と極端紫外自由電子レーザーの実証
<推薦理由>
 本研究は、従来の高周波加速に比べて桁違いに高い加速勾配を持つレーザー航跡場加速を用いて、極端紫外(XUV)領域のFEL発振を目標としたものである。金氏は、中心的研究者の1人として本研究を主導し、実験体系の構築からFEL発振の実証に至るまで多大な貢献を行った。
 特に金氏は、超音速ガス標的中に形成される衝撃波による密度境界を利用した電子注入手法や、レーザー波面の擾乱を抑制する光学調整法などの導入および実証において中心的な役割を果たした。これにより、1ジュール級のコンパクトなレーザーを用いながら、高エネルギー且つ単色性に優れた(ΔE/E < 1%)高品質電子ビームを再現性良く発生させることに成功した。更に、この電子ビームをアンジュレータに入射することで、波長20〜40nmの極端紫外(XUV)領域におけるFEL発振に成功した。これらの成果は金氏を筆頭著者としてScientific Reports誌、Physical Review Research誌において発表されている。
 長年、レーザー航跡場加速の課題とされてきたショット間揺らぎなどの改善を行い、XUV領域のFEL発振を実現した本成果は、金氏が理論的考察から数値シミュレーション、実験に至る広範な貢献を通じて、レーザー航跡場加速器を実用光源として利用する道を大きく切り拓いたことを意味する。
 以上の理由から金展氏を第22回日本加速器学会 学会賞 奨励賞に推薦する。

奨励賞 The 22nd PASJ Award for Research Encouragement

氏名:吉村 宣倖
所属:(株)東芝
業績:J-PARC加速器主リングにおける横方向ビーム集団運動の研究
<推薦理由>
 本研究は、大強度陽子加速器においてビーム強度を制限する一因となっている航跡場に起因するビーム不安定性の物理的理解と抑制を目指したものである。
 吉村氏は、J-PARC主リングにおける大強度陽子ビームの横方向集団運動について、理論、シミュレーション、実験の三方面から包括的研究に取り組み、横方向のビーム不安定性と空間電荷効果の関係性について新たな知見を獲得するとともに、空間電荷効果の著しい環境下においてフィードバックシステムの高度化を図る上で基盤となる有効な物理モデルを構築した。
 吉村氏は、線形近似のもと空間電荷の直接効果と間接効果を体系的に第一原理から導出するとともに、計算効率と正確性を両立させるマクロ粒子計算プログラムを自ら開発した。その理論、シミュレーションは実験結果をよく説明するとともに、空間電荷が横方向振動のデコヒーレンス・リコヒーレンス周期に及ぼす影響や、空間電荷がビームを不安定化させるのか、あるいは安定化させるかという長年の論争に対し、その主張の食い違いが、間接効果の考慮の有無に起因することを明らかにするなど、ビーム物理学上の重要な成果を上げた。その際に、線形近似やシミュレーションの適用限界を丁寧に整理しながら物理的理解を深めていった点も高く評価される。また、本研究は、今後のJ-PARCの大強度化に不可欠なイントラバンチフィードバックシステムの高度化に向けた重要な指針を与えるとともに、更には世界中の大強度陽子加速器への貢献も大いに期待される。加えて、以上の成果は、Physical Review Accelerators and Beams誌において Editors' suggestionに選出されるなど、吉村氏の主導した研究への客観的評価も極めて高い。  以上の理由から、吉村宣倖氏を第22回日本加速器学会 学会賞 奨励賞に推薦する。

技術貢献賞 The 22nd PASJ Award for Technological Contribution

氏名:惠郷 博文、稲垣 隆宏
所属:高エネルギー加速器研究機構、理化学研究所
業績:高電圧性能と不安定性抑制を両立したコンパクトHOM減衰型TM020空胴の開発
<推薦理由>
 電子蓄積リングなどにおいて高周波加速空洞の加速モードより周波数の高い高次モード(HOM)に起因するビーム不安定性は大きな課題であり、これまでにも多くのタイプのHOM減衰型空洞が提唱され各加速器に実装されてきた。しかし、加速モードの効率を落としてしまう、大きなスペースを必要とするなどの課題もあり開発が続けられてきた。
 元来HOMとして認識されていたTM020モードを加速に用い、空洞内でTM020モードに影響を与えない位置にHOM減衰体を収めた電子蓄積リング用空洞は、設置スペースと高周波電力消費を抑制しつつ高い加速電圧を実現し、効率の良いHOM吸収も可能となる非常に優れた斬新なアイデアで、惠郷氏が世界で初めて提唱したものである。しかしながら、これを実現するためには空洞端板に円周方向一周にわたりHOMを導き入れるスロットを設け、その奥にフェライトなどの電磁波吸収体を設置すると言うこれまでに無い複雑で製造が困難な加速空洞構造が必要となる。
 開発は、高周波/熱構造シミュレーション、コールドモデルによる低電力試験からスタートし、大電力モデルの試作と大電力試験、実機に向けての設計改善、実機製作とコミッショニングと着実に進められ、10年のときを経てNanoTerasu電子蓄積リングに実装された空洞は設計通りの性能を発揮している。海外も含めいくつかの次世代プロジェクトで本技術を採用した設計が検討され、今後世界の主流となり貢献し続ける優れた技術であることが示されている。
 惠郷氏は発案から実加速器への実装まで一貫して開発を牽引してきた。稲垣氏は特に困難を極めた大電力プロト機の製造技術確立、大電力試験、実機製作とコミッショニングを主導してきた。これらの貢献は多くの文献で明らかとなっている。
 以上の理由から、惠郷博文氏及び稲垣隆宏氏を第22回日本加速器学会 学会賞 技術貢献賞に推薦する。

技術貢献賞 The 22nd PASJ Award for Technological Contribution

氏名:平義 隆
所属:自然科学研究機構分子科学研究所
業績:90度衝突レーザーコンプトン散乱ガンマ線源の開発と実用化
<推薦理由>
 従来のレーザーコンプトン散乱ガンマ線源では、相対論的電子ビームに対してレーザーを正面方向から入射し、高エネルギーで準単色性・偏光性に優れたガンマ線を得る配置が一般的であった。この配置は、散乱光子のエネルギーを効率よく高めるうえで合理的であり、ガンマ線源開発の主流であるが、発生ガンマ線の時間幅は電子バンチ長の影響を強く受け、サブピコ秒からピコ秒領域の超短パルス化は容易ではない。
 平氏は、UVSOR電子蓄積リングを周回する電子ビームが、進行方向に長く垂直方向に極めて薄い扁平な形状を有することに着目し、フェムト秒レーザーを電子ビームの垂直90度方向から入射することにより、レーザーと電子ビームの相互作用時間を電子バンチ長ではなく横方向ビームサイズで決定させるという新しい発想を実現した。これにより、理論的にはフェムト秒領域の超短パルスガンマ線を発生可能とし、電子蓄積リングを用いたガンマ線源に新たな時間構造制御の概念を導入した。そして、本技術により発生した超短パルスガンマ線は、ガンマ線誘起陽電子消滅寿命測定など、材料内部の欠陥評価に応用された。さらに、レーザーコンプトン散乱ガンマ線の重要な特性である偏光制御に関する技術開発にも取り組み、コンプトン散乱を用いたガンマ線の空間偏光測定技術を開発し、ガンマ線の偏光が断面の位置によって変化するということを実証した。
 以上のように、平氏は、従来の正面衝突型レーザーコンプトン散乱では十分に開拓されていなかったガンマ線の超短パルス化という技術課題に対し、電子蓄積リング中の扁平な電子ビーム形状を活用した90度レーザー入射という独創的な手法にて逆コンプトン散乱ガンマ線源の時間構造制御を可能にし、さらには陽電子消滅分光をはじめとする材料科学応用へ展開した点で、加速器技術および量子ビーム応用技術の発展に大きく貢献してきた。
 以上の理由から、平義隆氏を 第22回日本加速器学会 学会賞 技術貢献賞に推薦する。

技術貢献賞 The 22nd PASJ Award for Technological Contribution

氏名:高柳智弘、徳地明
所属:日本原子力研究開発機構、パルスパワー技術研究所(株)
業績:SiC MOSFETとLTD方式による加速器キッカー電源の開発
<推薦理由>
 従来の高速・高出力パルス電源は、サイラトロンとパルス形成回路(Pulse Forming Network: PFN)をベースにした回路で構成されており、数10nsオーダーの高速立ち上がり時間と高い波形平坦度を実現できることから加速器用キッカー電源として広く採用されてきた。しかし、サイラトロンには寿命があり、突発的な故障や供給停止リスク、価格高騰といった不安要素を抱えているだけでなく、電源自体の大型化や回路の対地絶縁といった設計・製造・設置上の問題もあり、サイラトロン方式電源に代わる新しい加速器用キッカー電源の開発が強く待ち望まれているところであった。
 高柳氏と徳地氏は、次世代パワー半導体SiC MOSFETとLTD(誘導電圧重畳回路)方式を組み合わせてスイッチ回路、PFN、反射波吸収回路(エンドクリッパ)を統合した新しいLTD半導体モジュール回路を開発し、必要電圧を半減して消費電力を約25%削減しただけでなく、サイラトロン方式電源と同等の高速立ち上がり性能とフラットトップ平坦度±1%以下を達成した。さらに、電源装置の体積を約80%減らして小型化を実現した上にパワー半導体デバイスの特性を最大限活かして電源の信頼性・効率性・保守性を向上させ、サイラトロン方式電源を代替し得る新しい電源技術を切り拓いたことは特筆すべきことである。
 このLTD半導体モジュール回路の構成は極めて容易かつ安定で、サイラトロンのようなスイッチングノイズも出さないといった優れた特徴を有していることから、例えば数10nsの立ち上がりが求められるレーザー駆動イオン加速装置のイオン波形生成などにも既に応用されており、キッカー電源だけでなく様々な用途のパルス電源への適用も大いに期待されている。
 本研究開発においては、高柳氏が加速器用キッカー電源としての要求定義・基本構造設計・成立性評価を主導し、徳地氏がパルスパワー技術に基づく実装設計・部品選定・製作技術を担い、両者の専門性が補完的に上手く結びついたことによって高度な電源技術が生み出されたと言っても過言ではない。具体的には、高柳氏がパワー半導体SiC MOSFET を多数並列化する際の寄生インダクタンスのばらつきに着目して放射対称型回路構造を提案し、coaxial-type 構造により低インダクタンス化が可能であることを示した上で反射波吸収回路をLTD 半導体モジュール内に組み込む必要性を明確化し、空隙を低減して導体と絶縁体を一体化する絶縁設計コンセプトを生み出したことなどの功績が称えられる。また、徳地氏は、磁気コア、SiC MOSFET、コンデンサ、リセット回路などの最適な選定・評価を実施し要求仕様を満たす実機構成を構築しただけでなく、コロナ放電抑制を実現する絶縁筒構造を具体化して実用レベルの高電圧絶縁性能を達成し、モジュールの製作・組立・動作確認を担当して実機としての信頼性を最終的に確立したことなどが高く評価される。
 以上の理由から、高柳智弘氏及び徳地明氏を 第22回日本加速器学会 学会賞 技術貢献賞に推薦する。


特別功労賞 The 22nd PASJ Award for Distinguished Services

氏名:松本 浩
所属:高エネルギー加速器研究機構
業績:長年にわたる加速器技術、特に大電力高周波技術の開発と人材育成
<推薦理由>
 松本浩氏は 1970 年代の KEK 2.5 GeV 放射光入射器電子ライナック建設に始まって、KEK ATF 1.3 GeV 電子ライナック建設、電子陽電子リニアコライダー向けの C-band 加速器の開発、XFEL施設 SACLA へのCバンド加速システムの導入、J-PARC加速器ビーム入出射システムの開発など、これまでに幅広い加速器において技術的にキーとなるコンポーネントの開発に携わってこられ、加速器技術、特に大電力高周波技術の開発に多大な貢献をされている。
 KEK PF 2.5 GeV 電子ライナックにおいては高電界加速のための高周波技術開発の一環としてシリコンカーバイド(SiC)をマイクロ波吸収体として用いた無反射終端を開発され、その後 SiC の吸収体は KEK-Bファクトリー加速器などでも広く用いられるようになった。KEK ATF 1.3 GeV 電子ライナックにおいてはダブル結合孔型 RFパルスコンプレッサーを開発され、これは高電界性能の向上および不要なRFモードとの結合を大きく低下させるのに有用であった。また S-band 加速管の導波管とのカプラー空洞においてJ-字型に導波管をつないで180度反対側との2ヶ所から結合させる方式を開発され、中心軸上の電磁場分布を対称化することでビームへの横方向キックを低減された。
 C-band ライナックの開発においては多様な機器の開発に従事されたが、C-band導波管用にMO型フランジと呼ばれる接続内壁面に隙間も段差もほとんどできないフランジを開発された。その後これを応用したものが SuperKEKB 加速器の真空ダクト接続フランジなどでも広く使用されている。また 50 MW C-band パルスクライストロンの開発にも携わられ、このクライストロンは現在、RIKEN-SACLA、PSI-FEL など多くの C-band 加速器において使用されている。こうして開発された C-band 技術を SPring-8 での XFEL SACLA プロジェクトへの移転することにも尽力をされた。それがその後、多くの研究所で C-band 加速器がつかわれる先駆けとなっている。
 また、これらのような松本氏自身の研究開発の業績のみならず、松本氏が指導した若手研究者が、現在、多くの加速器施設や企業において研究開発を主導する立場で活躍しており、人材育成という点でも大きな貢献を果たした。半世紀以上にわたる松本氏の加速器分野への貢献は十分に特別功労賞に値する。
 以上の理由から、松本浩氏を 第22回日本加速器学会 学会賞 特別功労賞 に推薦し、併せて名誉会員資格を推薦する。