日本加速器学会 第18回学会賞

2022年4月26日に開催した学会賞選考委員会およびメール審議における選考をもとに、 評議員会で審議した結果、第18回(2021年度)加速器学会賞受賞者は下記の通り決定した。
(敬称略)


奨励賞 The 18th PASJ Award for Research Encouragement

氏名:平岩 聡彦
所属:理化学研究所 播磨研究所
業績:電子蓄積リングのビーム廃棄プロセスにおける電子ビームの回折的振る舞いの定式化とビームハンドリングへの応用
<推薦理由>
 平岩聡彦氏は、放射光発生用の低エミッタンス・高密度電子蓄積リングにおいてビーム密度を下げて安全に電子ビームを廃棄するため、蓄積電子ビームに周期的外力を加えることで電子ビームを位相空間上で広げて廃棄する共鳴現象を用いた手法の研究開発を行い、周期的外力が加えられた蓄積リング内の電子の力学系と光フラウンホーファー回折と類似の依存性をもつことを初めて示し、その共通原理を解明した。さらに、これらの解析に基づいて、実際の蓄積リングのビーム廃棄設計を行った。
蓄積リング内の電子ビームの廃棄は、従来は電子にエネルギーを供給するRFパワーを切り、ビームの全電荷をリング内に分散廃棄していた。しかし現在QSTによって東北大学青葉山新キャンパスに建設中の3 GeV次世代電子蓄積放射光リングのような低エミッタンス・高密度蓄積リングでは、ビームサイズが小さく高密度であり真空チャンバーを破壊するという問題があった。この対策として、次世代放射光蓄積リングでは、ダイポールシェーカーと呼ばれる電子ビームに周期的な外力を与えて垂直方向に電子ビームを広げて密度を下げて、真空チャンバー内に設置するグラファイトの電子アブソーバーで散乱させて廃棄する手法を採用している。この廃棄のための電子ビーム軌道解析では、従来は電子の運動を数値計算による多数粒子の追跡トラッキングが必要であったが、平岩氏は共鳴を与える最適周波数がどのように決まるかに興味を抱き、解析的手法でアプローチを行なった。固有振動数がゆっくりと変化する線形領域での解析の結果、シェーカーの周波数を変えると系の応答関数は、光のフレネル回折と類似した関係式となることを発見した。その共通する物理機構は、どちらも位相滑りで説明できることを示した。さらに、より厳密なモデルを用いて実際の電子ビームの挙動を正確に再現できることも示し、ビームシェーカーの最適な周波数が狭帯域で決まることを示し、現在建設中の3 GeV次世代放射光蓄積リングの電子ビーム廃棄法のパラメータを決定した。
平岩氏の研究成果は、全く異なる物理系である、電子ビームの強制振動力学系と光の回折という系が統一的に理解できることを示しており、物理的に大変興味深い。単に学術的に面白いだけでなく、解析的な手法に基づいた手法で実際の加速器に応用している点で実用的でもある。平岩氏は、加速器の分野に携わってから日が浅いにも関わらず、このように独自の視点で加速器物理に新しい視点を導入した将来性溢れる若手研究者と言える。
以上の理由から、平岩氏を第18回日本加速器学会賞奨励賞に推薦する。


技術貢献賞 The 18th PASJ Award for Technological Contribution

氏名:大内 徳人
所属:高エネルギー加速器研究機構
業績:SuperKEKB加速器ビーム最終集束用超伝導磁石システムの開発
<推薦理由>
 大内徳人氏は、責任者として率いるチームとともに、SuperKEKB・ナノビーム衝突型加速器を実現する上で極めて重要な役割を果たす、ビーム最終集束用超伝導磁石システムを開発し、完成させた。この開発は加速器・検出器と一体化した超伝導磁石システムに求められた磁石性能・ビーム集束性能を実現し、SuperKEKBでの加速器性能目標であるルミノシティ 8×1035cm-2s-1 の達成に向けた技術基盤を支えると同時に、将来のビーム衝突点超伝導磁石技術の発展にとって、重要な礎となるものである。
SuperKEKB計画は、のちに小林・益川理論を検証したKEKB加速器を大幅に性能向上させ、従来の数十倍の積分ルミノシティを現実的な実験期間に得ることにより、標準モデルを超える新物理の探索を行うことを目的として、2001年より開始された。しかしこれに必要な加速器性能目標を実現するための最終集束用超伝導磁石システムの開発が、大きな技術的課題であった。大内氏はTRISTAN、KEKB、米国SSC、CERN-LHCなど多くのプロジェクトの超伝導四極磁石の開発~建設あるいは解析・測定等の経験ののち、2009年よりSuperKEKBビーム最終集束用超伝導磁石システムの設計・開発・建設・運用の責任者となり、以下に述べる高難度の技術開発を、国際協力を含むチームを率いて推進した。
SuperKEKB 衝突点超伝導磁石システムは、4 対の四極メインダブレット(8 台の四極)、それらと組み合わされた其々の補償ソレノイド、さらに計43台に達する多極補正コイルから構成されている。補正コイルは米国BNLとの国際協力で開発され、四極磁石内ヘリウム容器に「直接巻方式」で巻かれ、最高の磁場分布精度と薄型多重磁石を達成している。これらのハイブリッド磁石システムは、ビーム衝突点(IP)からわずか0.7mという極めて衝突点近傍の限られたスペースに設置され、磁石システム全体をBelle II素粒子検出器システム内に収めることに成功すると共に、高輝度達成への要となっている。
また、補正コイルによって近接するコイル間の磁場クロストークをキャンセルすることで、最高の磁場精度を実現している。補正電磁石は、ノーマル及びスキューダイポール補正機能による四極磁場中心軸の調整、スキュー四極補正機能によるXY カップリングの低減、六極と八極磁場補正機能によるダイナミックアパーチャーの拡大とビーム寿命の延長に、重要な役割を担っている。 どの補正コイルもβy* を低減し、ビーム ・ダイナミックアパーチャーを増大し、それによってビーム寿命を延ばすために不可欠な役割を果たしている。
更に、米国Fermilabとの国際協力により、Single Stretched Wire (SSW) 法によるビームライン軸に対する各四重極磁場軸を確認すると共に、Rotating Coil で測定した高次高調波をビームライン上の最終位置で測定することで、ビーム衝突点領域で Belle II 検出器と加速器電磁石システム軸を一体的に検証するという独自の冗長確認努力が重ねられたことは特筆される。これによって、絶対的かつ高精度なアライメント校正と総合的な磁場品質の検証が行われたことは、極めてオリジナルな業績である。
超伝導磁石技術の観点からも、総数55台にも及ぶ超伝導磁石群を統合されたシステムとして設計、開発し、構造の複雑さ・精緻さゆえに製作~試験の段階で生じた数多の問題をひとつひとつ解決しながら完成させ、最終的に安定な運転を実現したことは、前人未到の開発研究業績である。
本開発は、ビーム衝突点超伝導磁石システム技術の集大成でありかつ将来への重要な礎となるもので、先進的粒子加速器分野への極めて重要かつ顕著な貢献であるといえる。
以上の理由から、大内氏を第18回日本加速器学会賞技術貢献賞に推薦する。


特別功労賞 The 18th PASJ Award for Distinguished Services

氏名:田辺 英二
所属:株式会社エーイーティー
業績:小型電子加速器の先駆的研究と3D加速器シミュレーションの導入
<推薦理由>
 田辺英二氏の長年の日本の加速器分野への貢献に対して、加速器学会賞・特別功労賞の授与を推薦する。理由は以下である。
田辺氏は、40年以上前に、当時としては珍しく単身で米国に渡り、Duke大学院博士課程を終えStanford大学でマイクロ波加速器を研究し、近接するVarian社でマイクロ波の加速器を中心とした医療、工業への応用研究をリードした。この経歴の中で、医療照射用電子線型加速器での開発実績、特に従来のものより広いエネルギー領域で電子を加速できる結合方法を工夫したサイド結合型定在波加速管の開発は、これにより癌の治療範囲が格段に広がった点で注目に値する。田辺氏は、Varian社の在籍時にも日本のリニアック技術研究会に度々参加し卓越した研究成果を余すことなく発表し、当時、米国の後塵を拝していた日本の加速器技術の向上に大きく貢献した。
加えて、田辺氏が加速器の小型化に直結する探求や加速空洞の高電界試験をSLACのチームと共同で行ったことは、Sバンド(2.856GHz)での高周波加速の限界を見極め、加速器の小型化に向けてCバンド(5.712GHz)やXバンド(11.424GHz)の可能性を探る先駆的実験研究であった。
更に田辺氏は、米国の実用主義の研究流儀の一環として、米国と日本でAET社(Advanced Electronics Technology、現在の株式会社エーイーティー)を起業し、日本の研究者が視野を広げることにつながった。AET社では、電磁界やビーム輸送シミュレーション、マイクロ波部品等について、そのサポートも含め商業ベースで広く安定的に利用できるような環境を日本国内で提供している。これも一面では実用主義であり、加速器分野に与えた影響は計り知れないものがある。 田辺氏は近年、加速器技術が小さな病院にも広く行き渡るように、医療用線型加速器へのXバンド加速管の応用による小型・低コスト化に挑戦しているほか、大学の講義を通じ、長年の経験や知見を若手研究者へ継承するよう努めている。これも将来にわたる加速器分野への大きな貢献、種まきである。
以上の理由から、田辺氏を第18回日本加速器学会賞特別功労賞に推薦する。