日本加速器学会 第14回学会賞

2018年4月19日に開催した学会賞選考委員会およびメール審議における選考をもとに、
評議員会で審議した結果、第14回(2017年度)加速器学会賞受賞者は下記の通り決定した。
(敬称略)


奨励賞 The 14th PASJ Award for Research Encouragement

氏名:金 秀光
所属:高エネルギー加速器研究機構
業績:歪み補償型超格子偏極電子源の研究
<推薦理由>
 金秀光氏は名古屋大学工学部在学中からGaAsに代表されるスピン偏極電子源の開発に一貫して取り 組んでおり、現在にいたるまで半導体の結晶構造の研究に基づいた電子源の開発に取り組んでいる。
 GaAsカソードは古くから高いスピン偏極が可能な電子ビーム源として実用化されており、格子のス ピン構造関数の精密測定やZ粒子の左右非対称性の測定等に利用されてきた。近年では偏極電子顕微 鏡を用いた表面磁区構造の測定やスピントロニクス研究が展開されている。GaAsカソードでは、リ ンなどの不純物を導入し結晶に歪みを与えた上で超格子構造とすることで、価電子の縮退を解き偏 極度を高めることが可能となるが、高い偏極度と量子効率を両立することは容易でない。金氏は、 このGaAsカソードにおいて、単に超格子層数を増やすのでは無く、歪みが蓄積され、結晶品質が悪化 しない様、歪みの方向を層ごとに交互にすることで局部的な歪みを維持したまま、歪みの蓄積を抑制 する結晶成長技術を開発し、高い偏極度を保ちながら、量子効率を向上させることに成功した。
 金氏の研究成果はスピン偏極電子ビームを用いる加速器、電子顕微鏡の性能向上をもたらすもので あり、素粒子原子核から物質材料まで、幅広い研究分野の更なる発展に貢献すると期待される。
 以上の理由から金氏を日本加速器学会奨励賞に推薦する。

技術貢献賞 The 14th PASJ Award for Technological Contribution Award

氏名:原徹、近藤力、川口秀章、川口祐介
所属:理化学研究所、高輝度光科学研究センター、ニチコン草津株式会社
業績:XFELマルチビームライン運転を実用化した60 Hzの高安定電子ビーム振り分けシステム開発
<推薦理由>
 原氏(理研)、近藤氏(高輝度光科学センター)、川口秀章氏(ニチコン草津株式会社)、川口祐 介氏(ニチコン草津株式会社)の四氏は、XFEL施設SACLAにおいてバンチ長15 fs(FWHM)以下、ピ ーク電流10 kA以上の超高輝度電子ビームを、バンチ毎にビーム品位を損なわず安定に複数のビーム ラインに振り分ける運転を実現するシステムの開発に多大な貢献を果たした。
SASE-XFELの発振と利用実験のためには、極めて高品位な電子ビームを生成・加速し、軌道変動を10 μm以下に抑えて安定にアンジュレータを通過させなくてはならない。一本のビームラインにシステ ムを最適化することが可能であっても、複数のビームラインにビームを振り分けてもXFELパルスを 劣化させないシステムは、相当に困難な技術的課題を孕む事は想像に難くない。とりわけ、振り分 けのための偏向部で電子バンチが自ら発生するコヒーレント放射光(CSR)によるエミッタンス増大 はレーザー発振を阻害する可能性があり深刻な問題である。また、スウィッチングによるビーム軌 道のずれあるいはパルス毎の変動は直接XFELの質的劣化を招く。原氏を中心にして、2つのDouble -Bend Achromat偏向部を用いて、両者間の位相進みをπにすることでCSRの影響をキャンセルさせる ビーム輸送光学を設計し、これを実現した。また、近藤氏、川口(秀)氏および川口(祐)氏等は、 SiC-MOSFETスウィッチング素子を用いた振り分け用の4象限チョッパー電源を開発し、繰り返し60 ppsで最大定格電流300 Aに対し15 ppm以下の電流安定度を達成した。
 これらの優れた技術革新によって短パルス高ピークパワーのXFELを複数ユーザーへ同時供給するマ ルチビームライン運転が確立され、加速器技術に基づく光科学の更なる進展に大きく寄与すること から、日本加速器学会技術貢献賞に推薦する。

特別功労賞 The 14th PASJ Award for Distinguished Services

氏名: 熊田 幸生
所属:住友重機械工業株式会社
業績:イオン加速器の製造技術向上と医療分野への普及
<推薦理由>
 熊田幸生氏は、住友重機械工業株式会社(以下、住友重機)に入社後、PET用小型サイクロトロン の開発に従事し、1981年にPET用サイクロトロンを京都大学に設置した。その後、我が国初となる 理化学研究所の重イオンリングサイクロトロン建設に参画し、サイクロトロンと重イオンリニアッ クの設計全般に通じることとなった。特に熊田氏は高周波加速装置の専門家として多くの成果を上 げている。大阪大学核物理センターのリングサイクロトロンにおいては、「可動パネル」方式の可 変周波数共振器が採用されたが、これは熊田氏の創案であり、この方式によって可動接点数が大幅 に減り、高い加速電圧の印加が可能になった。この技術は、理研RIビームファクトリーの中間段リ ングサイクロトロン、超伝導リングサイクロトロンの共振器にも採用されている。こうした高い技 術力に加え、熊田氏は製造現場にも通じており、如何にコストパフォーマンスを上げるかを常に求 めてきた。こうした努力は、住友重機が国内はもとより世界で有数のイオン加速器製造企業になっ た重要な要因である。
 さらに、熊田氏は、住友重機の加速器製造グループのリーダーとして、同社が培ってきたイオン加 速器技術を医療分野へ展開することを考え、PET用サイクロトロン、BNCT治療装置、陽子線治療装 置、重粒子線治療用入射器を開発・製造してきた。例えば、住友重機製PET用サイクロトロンは、 国内で100台以上、アジア地区で60台以上が稼働している。
 以上のように、熊田氏のこれまでの業績は、「加速器を、基礎科学分野の研究基盤装置としてそ の性能を向上させるとともに、これを社会に役立つ民生用の装置として広く普及させる」という日 本加速器学会の使命に合致するものであり、高く評価されるべきものである。

氏名:古矢 勝彦
所属:ニチコン株式会社
業績:高精度電源の開発による加速器の高度化と安定なユーザー利用の実現
<推薦理由>
 古矢勝彦氏はニチコン株式会社の技術者として、1980年代におけるトリスタン用のハイパワーCW  クライストロン電源開発やライナック用のパルスクライストロン電源の開発研究を進め、90年代  は様々なパルス電磁石電源の開発やクローバ回路を用いない高周波スウィッチングCWクライスト  ロン電源を実用化するなど、多くの加速器のための様々な電源開発にたずさわった。
今日の先端的な大型リング加速器によるビーム実験では、ビーム入射の安定性が極めて重要な役割 を果たす。例えば放射光リングにおけるトップアップ運転では、閉軌道をつくるバンプ軌道が揺ら ぐと軌道振動が発生し放射光利用に重大な支障を及ぼす。しかしながらSPring-8においてはビーム 入射時の軌道振動がビームサイズの10%に抑えられており、世界最高レベルのトップアップ運転が 実現している。これはバンプ磁石を励磁するパルス電源の充電電圧精度が0.01%以下を達成したこと が大きな成功因子である。
古矢氏を中心に開発・高度化されたこれら先端技術はJ-PARCの同種電源に導入され、更にはSACLAの パルスクライストロン電源にも応用されて0.001%以下の精度を達成することでX線自由電子レーザ ー発振の牽引力となった。
これら一連の電源開発を担い、またメーカーの事業責任者として長年にわたって加速器の高性能化 と安定なユーザー利用を実現してきた古矢氏は、本邦の加速器科学・技術の発展に多大な貢献を成 したと高く評価でき、日本加速器学会の特別功労賞に推薦するものである。