第3回(2006年度)加速器学会賞受賞者決まる。
2007年5月20日開催の学会賞選考委員会における選考をもとに、評議員会で審議した結果、以下のとおり決定した。

受賞者の氏名(敬称略)

奨励賞
PASJ Award for Young Scientists
  岩田 佳之 放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター・物理工学部
  冨澤 宏光 財団法人高輝度光科学研究センター加速器部門副主幹研究員
技術貢献賞
PASJ Award for Technical Contributions
    荻津 透 高エネルギー加速器研究機構大強度陽子加速器計画推進部
    中本 建志 高エネルギー加速器研究機構共通基盤研究施設超伝導低温工学センター
    東 憲男 高エネルギー加速器研究機構共通基盤研究施設機械工学センター

受賞者の氏名(所属)、研究課題等、推薦理由は、以下のとおりである。

奨 励 賞(2名)

氏名:岩田 佳之
所属:放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター・物理工学部
業績:APF方式IH型線形加速器の開発

<推薦理由>
 岩田氏の業績は、世界で始めてAPF(Alternate Phase Focusing)方式で電界によりイオンビームを収束しながら加速するイオン線形加速器を開発(設計・製作し、実際にビーム加速を実証)したことである。さらにこの成果を低エネルギー領域でアルバレ型に比べ、小型、高効率のIH(Inter Digital H)型線形加速器で実現したことは一層評価を高めるものである。
これまで一般にビームの横方向の収束はドリフトチューブに内蔵した四極電磁石か、比較的短い線形加速器間に設置された四極電磁石で行われていた。それに対して本成果によれば四極電磁石が不要になり、装置の小型化、高効率化、部品数の削減、消費電力の削減など、設置スペース削減、信頼性向上、コスト削減が可能になり、低エネルギーイオン線形加速器の高度化に大きく貢献するものである。
APFの原理は古くから提唱されていたが、限られた収束力をビームの進行方向と横方向の収束に振り分けるため、高度な設計技術が求められ、これまでは実際の設計・製作は困難と考えられていた。岩田氏は本加速器の設計にあたって、ビームの縦方向と横方向の収束のバランスと加速効率を慎重に検討して各加速ギャップでの加速位相を決めた。また、IH型線形加速器では共振周波数や各加速ギャップでの加速電界もドリフトチューブ配列など共振空洞内の構造のわずかな違いに強く影響されることから、軌道計算で仮定した共振周波数、加速電界分布を実現することは簡単ではない。岩田氏はビーム軌道解析コードと最新の3次元共振電磁界解析コードによる解析を慎重に繰り返して最適な解を見出した。さらにモデル空洞を製作し3次元共振電磁界解析の信頼性を検証した後にさらに最適化を行って実機の設計を完成した。
さらに設計だけにとどまらず、イオン源、RFQ、RFシステムを含む加速実証機の製作をまとめあげ、ビーム加速、ビーム計測を行い、製作した実証機が設計通りの性能を有することを検証した。
岩田氏の業績は上述のように非常に広い範囲に及び、かつその成果の波及効果は大きい。事実、本成果は普及型重粒子線がん治療装置の入射器として採用され、装置の大幅な小型化、省電力化、信頼性向上に多大な貢献を成している。
設計手法の確立、原理実証から、実用まで短期間に達成した岩田氏の業績は加速器学会奨励賞にふさわしいと判断し、推薦いたします。


氏名:冨澤 宏光
所属:財団法人高輝度光科学研究センター加速器部門副主幹研究員
業績:フォトカソードRF電子銃の高安定化・高性能化に関わる技術開発

<推薦理由>
 冨澤氏は、フォトカソードRF電子銃の研究において、極低エミッタンス電子ビームの実現と評価において必要不可欠な三つの成果を挙げた。
1.レーザ光源の長期安定化と3次元パルス形状制御技術の開発。
 このうち、「透過型カソード用ファイバーバンドル3次元パルス整形技術」の発明では特許を取得
2.化学エッチングによる表面処理によるRF電子銃空洞の世界最高カソード表面電界190MV/mを実現。これによりRFエージング時間の大幅短縮が実現した。(開発したエッチング方法は、現在特許申請中)
3.電子銃空胴内のエージング状態を残留ガス元素から分析する放電分光装置の開発と電子銃空胴内の残留ガス元素分析方法を確立した。
 これらの研究成果は、米国、欧州、ロシア、アジア等の第一線の加速器・レーザー研究者等から非常に高く評価され、特に「3次元パルス形状制御技術」は、国内外の研究機関ですでに採用、あるいは採用見込みとなっている画期的な技術である。また、これら研究開発において、独自のアイディアを提案し、それを自身が実験で実証し、科学技術の進展にとって最も重要な、安定性と再現性の高いデバイスを実現する研究開発姿勢も、研究成果とともに高く評価することができる。
 冨澤氏を加速器学会奨励賞に推薦する。
技 術 貢 献 賞(3名)

氏名:荻津 透
所属:高エネルギー加速器研究機構大強度陽子加速器計画推進部
業績:単層超伝導コイルによる複合磁場磁石の開発???発案と概念設計???

<推薦理由>
 単層超伝導コイルにより複合磁場(二極と四極)磁石を発案したが、設計には非対称コイルに伴う技術的諸問題を正しく取り込んでおく必要があった。更に氏は、量産時の経費削減を視野に入れ、また高精度と高安定度を実現しやすいように、要素数を減らした概念設計を、自ら開発した解析コードを駆使し行った。これを基礎とした詳細設計と高精度加工技術により、本電磁石が可能となり、要求を満たすJ-PARCニュートリノ・ビーム・ラインが実現した。
 以上、単層超伝導コイルによる複合磁場磁石の実用への道を切り開いた氏の貢献は加速器学会技術貢献賞に値する。

氏名:中本 建志
所属:高エネルギー加速器研究機構共通基盤研究施設超伝導低温工学センター
業績:単層超伝導コイルによる複合磁場磁石の開発???技術設計と磁石開発推進???

<推薦理由>
 首記電磁石は左右非対称であるため、電磁気力に打ち克ってコイルを所定の位置に固定することが、磁石実現の根幹といえる。このためには、コイル本体のみならず、カラーなど固定具も含め、電磁石製作の総合的観点から精緻な三次元計算による最適化が不可欠である。計算にはモデル化が避けられないので、実証実験と参照させてこそ真の設計といえる。これらを通して、氏はコイル支持機構を開発し、首記電磁石を実現した。
 よって氏を加速器学会技術貢献賞に推薦する。

氏名:東 憲男
所属:高エネルギー加速器研究機構共通基盤研究施設機械工学センター
業績:単層超伝導コイルによる複合磁場磁石の開発???製作技術の確立???

<推薦理由>
 首記電磁石は左右非対称であることや、磁極中心と構造中心のずれなどから、製作には磁石特有の冶工具が必要となる。氏は長年の経験から、高精度な冶工具を自ら開発・製作し磁石製作の技術を確立した。この技術を基礎として本電磁石の量産が可能となった。
 よって氏を加速器学会技術貢献賞に推薦する。